▼About Beer (from THE BEER BOOK by Tim Hampson)


アメリカ合衆国

米国はビールにも「新世界」をもたらそうとしています。アラスカからメキシコ国境付近に至るまで、この国の醸造会社はあらゆる限界に挑戦しているのです。世界のどこよりもダークなビール、ビターなビール、大量のホップを使ったビールなどなど、そこには守るべきルールなど存在しないかのようです。ヨーロッパのスタイルは別のものと考えられ、ほとんど取り入れられていません。

 今から半世紀近く前に、米国のビール産業再興の父ともいわれるフリッツ・メイタグが、廃業寸前のアンカー・プルワリーを買収。これが革命の始まりでした。現在では、新しい醸造所が1,400か所以上もあり、そこには制約はほとんどありません。クラッシックなスタイルにヒントを得たものから、醸造家が自由にイメージしたものなど、様々なスタイルのビールが造られています。

 

デラウェア州ミルトンのドッグフィッシュヘッド・ブルワリーでは、創業者のサム・キャラジオンが「マニアのためのマニアックなビール」を醸造しています。彼が醸造するビールは、考えられないような原料を使用したり、在来原料の場合でもそれを極端に多く使用しています。例えば、ホワイト・マスカット、ハチミツ、サフラン、甘草、チコリ、コーヒーを加えるなどです。

 ブルックリン・ブルワリーのギャレット・オリバーは、環境に配慮して全ての動力を風力でまかなっています。

また、料理との相性も工夫しています。ギャレットは、どのレストランでもワインリストと同じようにビールリストも用意してほしい、と考えているのです。また「美味しいビールは、手軽な賛沢であり、美味しい料理と合わせることはとても創造的なことで、人生を楽しくしてくれる」ともいっています。

 アラスカ州ジュノーにあるアラスカン・プルワリーでは、地域の特性を強調したものが造られています。スモークドポーターでは、ハンの木でスモークしたモルトが使用されています。ドイツのバンベルクではスモークにブナ材を使いますが、ここのはアラスカ風です。マサチューセッツ州ボストンにあるサミュエルアダムズは、アルコール度数の限界に挑戦しています。ここの「ユートピア」はアルコール度数が26.5%もありますが、さらに高いものにも挑んでいくようです。

 イリノイ州シカゴにあるグースアイランドの醸造家グレッグ・ホールは「ビール造りは、使用するホップの麓が命なんです」といっています。インペリアルIB4kは、ホップを極端に多量に使用。これに、テトナンガー、シムコー、カスケードが加えられ、さらに追加して90ibu(ibuはビールの苦味を示す単位)に達するまでになります。米国のライトピールが5ibuであるのとは大違いです。