#31 硬派で上質 CORONA CHINA

"CORONA CHAINA"

正式なタイトルは分かりませんが、中国北部の内陸部に住む7人の家族が、沿岸部の大都市経由で初めて海を見るまでの旅路を、3分のドキュメンタリー風にまとめた佳作です。コロナビールといえば太陽、海、砂浜、リゾートといった、南国の開放的なイメージですが、硬派で良質なCMも作れるんだと認識を新たにした作品。

 

<ストーリー>

映像は一家の長男とおぼしき男性の台詞からスタート、字幕には

"I here people shout when they see the sea. Is that true? Will I shout too?" 

中国語と思われる楽曲が流れ、一家が暮らす村の風景が映し出されたあと、場所を示すテロップが表示されます。

 

Northern China 46°N, 86°E

Furthest place from any ocean in the world

(中国北部 北緯46° 東経86° 世界中のどの海からも、最も離れた場所)

 

場所はおそらく新疆ウイグル自治区。

一家は厳しい自然の中で生活、経済的なゆとりはないけれどそのぶん家族のつながりは強く、お互いに支えあって暮らしています。そんな日常を送る家族に、ある日海を見に行けるチャンスが訪れます。長男は冒頭の「人は海を見ると叫ぶと聞いたことがあるが、本当だろうか。自分もそうしてしまうのか?」と思い、姑は「村を離れるなんて考えたこともなかった、今でも信じられない」と言う。そんな家族7人が、車に長時間揺られ、列車を乗り継ぎ、飛行機に乗ってようやく沿岸部の大都市にやってきます。旅の途中ではいろんなことに驚き、初めての体験に戸惑ったりと、故郷の村に留まったままでは決してできなかったことを一気に経験します。そして最後は待望の海に到着し、子供のようにはしゃぎまくる7人の家族。嬉しさを全身で表現しながらコロナを飲み、幸せを分かち合うところで終了となります。

 

 

このCMが作られた経緯は不明ですが、

 

  Experience 

  The extraordinary

 

がテーマとなって作られたCMだと推察されます。

島国日本に住む自分たちにとっては、海を見ることにそれほどの価値は感じられませんが、世界中のどの海からも一番離れている場所に住む家族が、一家揃って海を見るということは、何ものにも代えられない貴重な経験なのでしょう。しかも海に着くまでに必然的に様々な経験を重ねていきますが、その一つ一つが我々が思っている以上に、心に残っていくものといえます。また中国沿岸部と内陸部の格差が著しい現状や過酷な自然環境に、つい内陸部の人は生活が大変で、かわいそうと思いがちですが、本人達は全くそうは思ってはいません。それは外の人の勝手な思い込みに過ぎず、当たり前のこととしてすべてを受け入れています。その中で喜怒哀楽が日々繰り返され、それぞれの人生が消化されていくのが、その土地での生き方なんですね。

価値観は場所や、環境、考え方次第で変わるもの、幸せの尺度は人それぞれということを、改めて考えさせられたCMでした。

 

※家族の中でおじいさんが一番良かったですね。キャラクターが立っており存在感がありました。